バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)が、長年依存してきたロシアの電力網「BRELL(ベラルーシ、ロシア、エストニア、ラトビア、リトアニア)」からの切り離しを開始した。これは、旧ソ連から独立して30年以上経った今、欧州連合(EU)の電力網へ統合するという歴史的な転換となる。
■ 2日間にわたる移行プロセス
この移行作業は2日間にわたって行われ、2月10日(土)に始まった。各国の政府は住民に対し、スマートフォンや電子機器の充電、食料や水の備蓄を促し、天候不良時の停電に備えるよう呼びかけた。また、安全対策としてエレベーターの使用を控えるよう勧告され、一部地域では信号機が停止する可能性もある。
リトアニアの首都ヴィリニュスでは、EUのウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長も出席する式典が予定されており、特製の巨大時計が切り替えの瞬間をカウントダウンする。
■ ロシアの影響力からの脱却
BRELL電力網は、第二次世界大戦後に整備され、現在もモスクワの管理下にある。バルト三国は2022年以降、ロシアからの電力供給を購入していないが、電力の流れ自体はロシアに依存していた。そのため、エネルギー供給を通じたロシアの地政学的な圧力を受けるリスクがあった。
今回の切り離しによって、各国は土曜日の朝にBRELL網から切断され、周波数テストを実施した後、日曜日にポーランド経由でEUの電力網に正式に統合される予定だ。
リトアニアのジグマンタス・ヴァイチュナス・エネルギー相は、「ロシアが電力システムを地政学的な脅迫の道具として使うことを阻止する」と強調している。
グラスゴー大学のデイビッド・スミス教授も「バルト三国はEUやNATOに加盟した後も、ロシア・ベラルーシの電力網に依存する”エネルギーの孤島”と見なされていたが、今回の切り替えで完全に独立する」と指摘した。
■ ロシアの報復リスクとNATOの対応
バルト三国とロシアの国境は総延長874kmにも及び、ロシアのウクライナ侵攻以降、両者の関係は極度に緊張している。2022年以降、バルト海では電力ケーブルやパイプラインの破壊が相次ぎ、少なくとも11本の海底ケーブルが損傷している。
最近では、ロシアの「影の艦隊」とされるタンカーがエストニアの主要電力リンクを破損させた疑いが浮上している。NATOは直接ロシアを名指ししていないが、新たな警戒監視任務「バルト・セントリー」を開始し、対策を強化している。
ラトビアのエドガルス・リンケービッチ大統領は「何らかの挑発がある可能性を排除できない。そのため、ラトビアおよび国際的な治安機関は最高レベルの警戒態勢をとっている」と述べた。エヴィカ・シリナ首相も「リスクは十分に認識しており、対策も準備済みだ」と強調した。
■ サイバー攻撃と情報戦の懸念
NATOのエネルギー安全保障センターは、過去数カ月にわたり電力網に対する緊急オペレーションテストを繰り返し実施し、サイバー攻撃への備えを強化してきた。
エストニアのサイバーセキュリティセンターの責任者、ゲルト・オーバールト氏は「ロシアはこの移行期間を利用して不安を煽る可能性があるが、国際的な協力体制のもと、エストニアは最悪のシナリオにも対応できる準備ができている」と述べた。
実際、ロシアのウクライナ侵攻以来、バルト三国へのサイバー攻撃は急増しており、DDoS攻撃(分散型サービス拒否攻撃)や政府機関・企業への標的型攻撃が確認されている。
また、バルト三国が2024年8月にBRELL離脱をロシアに通告した直後、SNS上で「電力供給が途絶え、電気料金が高騰する」といった誤情報が拡散された。
■ まとめ
バルト三国は、ロシアの影響力から脱却し、EUの電力網へ統合するという歴史的なステップを踏み出した。この動きは単なるエネルギーの移行にとどまらず、安全保障や地政学的な意味でも極めて重要な決断といえる。
今後、サイバー攻撃やロシアの報復行動への懸念が残るものの、バルト三国はNATOやEUと協力しながら、エネルギーの独立を確立していく方針だ。